土曜日のリハの最中に、去年退職したTさんから連絡が入った。
「Oさんが亡くなった」と。
Oさんは会社の先輩でとっくの昔に定年で退かれたが、まだ70歳手前だった。
ちょっと変わった人で、しかも夏場に半袖が着れない、と言えばお分かりだろうが、背中には紋紋が入っており言葉遣いもカタギの口調ではない。
「男気」とか「義理人情」といった言葉が大好きで、カラオケで歌うのは当然「兄弟仁義」。
頭に血が上ってお客さんをぶん殴りブタ箱行きになったという武勇伝(?)もある人だ。
もう20年くらい前になるだろうか、同じ支部で組合の委員をやっていたYさんが酒の席で殴られた。
私のことを同じ穴のムジナくらいに思っていたのだろう、その後初めてOさんと酒宴で同席したとき想像通り喧嘩になった。
ただ私は殴られなかった。というか、最後は肩を組み二次会のカラオケスナックで歌い、酔っ払ったOさんを自宅まで送り届けて帰った。
それから年に1,2回一緒に飲むようになった。最後は私がおもりやく。
やってることは少々横暴だが、「思いやり」とか「約束ごと」にはとてもうるさい典型的な昔かたぎのおじさんだった。
ここ数年はすっかり疎遠になってしまっていたが、年に一度は必ず電話がかかってくる。
去年の夏ごろだったか、実は胃がんになって入院していたと電話があった。でも、もう飲めるようになったから大丈夫だとも言っていた。
入院してから手術するまでの経過を面白おかしく語ってくれたOさん。あの時の会話が最後になろうとは。
律儀なOさんだったが、年賀状は駄目だった。正月すぎに来たり、今年は来ないなぁなんて思ってると突然1月の中ごろに電話がかかってきたり。
今年は珍しく元旦に届いた。
しかも印刷ではなく、しっかり自筆で。
胃はほとんど摘出していたそうだったが、癌は直っていなかった。
葬祭場を出る前に、Oさんの顔を拝ませてもらった。
かつてはブイブイ言わせた厳つい表情もなく、とても穏やかな寝顔になっているのを見て思わず泣けてしまった。
お通夜も終わり、数人の先輩達とお清めに。
皆、平均年齢70歳前後。
「伊藤ちゃん、困ったことがあったら何でも相談してくれよ!」。酒も入っているせいか、みんな涙流しながら握手してくる。
こんな気さくな先輩達がいたあの時代は会社が楽しかった。